「家にあった抹茶で濃茶(こいちゃ)を作ったら、まずかった。」
先日、女子会…もとい、マダム会で友人のひとりからの衝撃発言に思わずむせてしまった私。
なんでも家にあった缶入りの抹茶の残りをスプーンでかき出し、ポットのお湯を適当に入れたら、偶発的に「濃茶(みたいなもの)」になったのだそう。
なぜ、スプーン1杯程度で作ることのできるの薄茶にしなかったのか、そもそもそんなことになる前になぜ私に言ってくれなかったのか、今となっては後の祭りですが…。
なので!
「まずかった。」というフレーズを返上すべく今回は、濃茶と薄茶とでは何が違うのか?抹茶の種類、濃茶の作り方のコツ、濃茶の飲み方について簡単にご紹介したいと思います。
濃茶と薄茶では使われる抹茶の種類がチャノキから違う!
濃度が濃いというだけでは濃茶ではない
まず最初に申し上げたいのは「濃度が濃いというだけでは濃茶ではない」ということです。
抹茶をたくさん入れて少量のお湯で作れば「濃茶」、たしかにイメージ的には合っているような気もするのですが…
そのお抹茶、濃茶用のお抹茶ですか?
何人分の量として作られましたか?
お湯の温度は適温ですか?
濃茶には薄茶とは明らかに違う点がいくつかあるのです。
本来の濃茶とは
「昨日、お茶会に行ってお抹茶飲んできた。」の「お抹茶」は、だいたい大寄せの茶会(大人数で催されるお茶会のこと)で出される「薄茶」のことを指します。
「濃茶」は「茶事」と呼ばれる本式の茶会で出されます。
お茶事では、食事(懐石)が出たり、時にお酒まで出たりしますが、あくまで「濃茶」がハイライトです。その「濃茶」をいかに美味しくお客さまに召し上がっていただくか、ということに亭主(ホスト役ですね)は心を砕きます。
「濃茶」に向けて炭をつぎ香をたき、懐石を給仕し、部屋のしつらえまで変える。
すべては「濃茶」のために…!…そんな濃茶ですから「まずいはずがない!」…は個人の意見としても、薄茶とは一線を画する意味合いを持つお抹茶であることは間違いありません。
茶壺の中で濃茶を守る薄茶
現在はすでに微粉末状で缶入りや袋入りになった状態で売られている抹茶が主流ですが、昭和初期くらいまで、抹茶は「碾茶」と呼ばれる「茶葉の状態」で売り買いされていました。その碾茶を、点てて飲む人が「茶臼」で挽いて使っていたのです。
夏も近付く八十八夜の新茶の時期に摘み取られ「仕立て葉」の状態にまで製造工程が終わった茶葉「碾茶」は、茶壺に詰められ夏越しとエイジングのため山間部の冷暗所に貯蔵されます。
今でこそ密閉容器に窒素ガス充填と冷蔵庫ですが、茶の湯こそが処世術だった江戸時代の大名達はこぞって茶壺を京都宇治に送り碾茶を求めました。
送られてきた茶壺にはお茶師と呼ばれる職人達によって二種類の碾茶が詰められました。
まず「樹齢50年以上のチャノキの茶葉」で作られた「濃茶の碾茶」が和紙の袋に詰められ封をされ茶壺の中へ。
そして「樹齢の若いチャノキの茶葉」で作られた「薄茶の碾茶」の茶葉がそのままダイレクトに濃茶の碾茶の袋詰を包み守るように詰められていきます。
その姿はまるで「贈答品と緩衝材」くらいに扱いが違います。
茶葉で満たされた茶壺は封をされ、山間部の冷暗所にて一夏をかけ熟成されます。
熟成され出来上がった碾茶の茶壺はその後、依頼元である幕府や大名をはじめ、神社仏閣、茶道家元の元へ送られて行きました。
このように、濃茶と薄茶では使われる茶葉の「チャノキの樹齢」も「扱い」も違うのです。
濃茶用と薄茶用
現在、店頭に並ぶ抹茶の濃茶と薄茶の簡単な見分け方は、濃茶用には
- 「濃」
- 「濃茶」
- 「濃茶に使えます」
などと書いてあったり、あるいはネーミングに「〇〇の昔」とつけてあるものはだいたい濃茶です。
また逆に「〇〇の白」と書かれてあるものは薄茶に多いです。
あと絶対ではありませんが、20g1000円以上のもの、つまりハイランクのものが濃茶に向いています。
濃茶と薄茶では作り方もこんなに違う!濃茶は「練る」!薄茶は「点てる」!コツは分量にあり?!
濃茶と薄茶では「作る」の表現も違います。
濃茶は「練る」といいます。
薄茶は「点てる」といいます。
作り方で一番の違いは「量」です。
先程は使う抹茶の違いについてお話しましたが、作り方で一番の違いは「量」です。
「はく抹茶の量」も「解くお湯の量」も違います。
一人前で換算すると、はく抹茶の量は、薄茶を1としたとき、濃茶は3、そう3倍もの量です。
一人前で作ることはほとんどなく、だいたい3~4人前分を作るので、濃茶で抹茶をはくと抹茶碗の中でみるみるうちに抹茶の山が出来ます。
次に解くお湯の量を比べて見ましょう。
一人前で換算すると、解くお湯の量は、薄茶を1としたとき、濃茶は約0.3、なんと3分の1以下です。
なので、濃茶用でない、安価で「苦味」のキツイお抹茶をこの濃度で飲むことを想像すると…ちょっと厳しいですよね~?(笑)
悪いことはいいません。濃茶には、濃茶用の抹茶を用いましょう。
さて。
前述のように「濃茶」は非常に格式の高いものです。
ですが、自宅で作れば誰に気兼ねすることもなく、ゆっくりと、濃茶を楽しむことができます。
いくつかのポイントを押さえて自宅で美味しいお濃茶をいただいてみませんか?
自宅で出来る濃茶の練り方のコツ!
- 茶碗は必ず温める
- 抹茶は大さじ1杯✕人数分
- 最初は常温の水(大さじ1杯✕人数分)で練る
- 熱湯で(大さじ1杯✕人数分)仕上げる
- お一人様でも2人前で作る
※こちらの記事で濃茶について詳しく説明しています。
よろしければお読みくださいね!
濃茶の美味しい練り方!コツは抹茶の量と水分の量!オススメの練習方法?
自宅で出来る薄茶の点て方のコツ!
- 茶碗は必ず温める
- 抹茶は小さじで軽く1杯(1~1.5g)
- 最初は常温の水(大さじ1杯)で練る
- 湯冷ましのお湯50mlで仕上げる
※こちらの記事で薄茶について詳しく説明しています。
よろしければお読みくださいね!
抹茶を自宅で美味しく点てるコツ!道具や簡単な作り方を分かりやすく紹介!
乱暴な言い方をすれば、濃茶用は「薄茶」としても飲めます。
でも逆に薄茶用は「濃茶」としては向いていません。
私も以前、実験(笑)したことがあるのですが、薄茶用の抹茶で濃茶を「練る」ことは出来ませんでした。
いつまでたってもとろみが生まれないのです。
また濃度が高いせいか、やたら「苦味」だけが際立ち、お世辞にも「美味しいとはいえない」しろものでした
濃茶と薄茶では飲み方も違う!濃茶は回し飲み!薄茶は吸い切る!
一客一亭といって、お客さまも一人、亭主も一人の場合は別ですが、だいたいのお茶事はお客さまとして2~3人程度が招かれます。
濃茶のいただき方は同じ茶碗で回し飲み!
濃茶のいただき方は、全員分の量の抹茶がひとまとめに入った一つのお茶碗を順番に回し飲みします。
後の方の分量も考えながら、だいたい2~3口程度いただきます。
飲み終わったら自分が口をつけた場所を懐紙でぬぐいます。その同じ場所で他の方も召し上がるからです。
同じ釜の飯を食う、ではありませんが、戦国時代、同じ茶碗の茶を服することで繋がりを作っていったのでしょうね。
ところで、茶道の所作でこの濃茶を正客(一番目の貴賓)が一口飲んだタイミングで「お服合いは?」と尋ねるくだりがあります。
あれはほとんどの方が「味や湯温はいかがですか?美味しく出来上がってますか?」と尋ねている、と思っていると思いますが、厳密には違います。
「毒、入ってませんか?不味かったり何か混入して粗相してませんか?」と尋ねているのです。
その証拠に濃茶の所作に「中仕舞」というのがあります。
広げた道具を一旦片付け茶釜の蓋をしめ、お客様の方を向いて待機する。
「もし、なにかしら不都合(毒が入っていたり)があったり、粗相があったりしたら、その責任をとってこの場で自ら果てましょう。」
という覚悟の意味合いを持った挨拶と所作なのです。
こういったことからも「濃茶」がいかに真剣で、格式高いものなのかがうかがえますよね。
薄茶のいただき方は一碗を3口で吸い切る!
薄茶は一人に対して、一つのお茶碗で、ひとり分ずつ点てますので、全部飲んで良いのです。3口程度で飲み終わったら、最後のしずくまで飲み干すつもりで「スッ!」と小さく音をたてて吸い切ります。
この吸い切りの音で「飲み終わりましたよ」という合図を亭主(点ててくれた人)に送るのと、飲み終わった後お茶碗を拝見する際、茶碗を傾けた時に粗相のないようにするためです。
まとめ
今回は濃茶と薄茶の違いは抹茶の種類?作り方のコツや飲み方で簡単にご紹介!と題して、
- 濃茶と薄茶では使われる抹茶の種類がチャノキから違う!
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濃茶と薄茶では作り方もこんなに違う!濃茶は「練る」!薄茶は「点てる」!コツは分量にあり?!
- 濃茶と薄茶では飲み方も違う!濃茶は回し飲み!薄茶はひとり前!
の視点から違いをご紹介しました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!!